将棋 中盤

 家に帰ると、鬼嫁猫相手に将棋を指してみることとした。

 予想どおりというかなんというか、鬼嫁猫は非常に弱い。弱すぎる。目のまえに出されたエサ(駒)にすぐ飛びついてしまう様はまさに猫である。あっという間に鬼嫁猫の駒をほとんど手中におさめることができた。

 すると、鬼嫁猫が、おもむろに、こちらの「王」の前に置いてある「歩」の前に、自身の「歩」を置いてきた。私の「歩」で鬼嫁猫の「歩」をとってしまえばいいだけの、訳の分からない手である。

 鬼嫁猫の「歩」をとろうとした矢先、鬼嫁猫が鋭い視線を送ってきた。「『歩』をとったらあかんで。」。

 鬼嫁猫が暴れ出すと困るし、近くには「金」もあるので一度は見逃してあげることとした。鬼嫁猫は「えらいぞ」という謎の上から目線で、自身の「歩」で私の「歩」をとり、「と金」と成った。王手である。しかし、私の「金」がその横にあるので、その「金」で「と金」をとれば済む話である。それ以上の仕掛けもない。

 私が鬼嫁猫の「と金」をとろうとした矢先、今度は鬼嫁猫が「こういうのは新人に勝たせなあかんで」と言ってきた。

 「こういうのは」の意味するところが全く不明であるが、目は真剣である。しかし、私は子供相手にも勝てる試合は勝ちきるのが礼儀だと考えているので大人の鬼嫁猫の主張など一蹴し、鬼嫁猫の「と金」を奪った。鬼嫁猫の不満げな表情は見ないこととして盤上のみに集中し、その後は思うがままに駒を進め、まもなく勝敗がついた。