家事分担表

 私は、1人暮らしをしていた頃、あまり家事をするタイプではなかった。そして、結婚をすれば家事はさらにほとんどしなくなるのであろうと思っていた。

 しかし、当初の予定とは異なり、私は結婚して以降の方が家事をしているように思われる。なぜそのようになったかというと、我が家は「家事分担表」なるものに基づいて運営されているからである。

 「家事分担表」は、ある日、私が家に帰ると突如としてテーブルの上に置かれていたものである。聞くと、家事の公平分担の観点から、鬼嫁猫が作成したとのことである。

家事分担表は、縦軸に、朝食の用意、床掃除、ゴミ捨て、洗濯機を回す、洗濯物を干す、夕食の用意、洗い物、風呂掃除・風呂入れる、ふとんクリーナーなどといった家事の項目が記載されており、横軸に、各項目の負担の程度を示す星(☆)と、担当者名(私or鬼嫁猫)が記載されている。

 例えば、「朝食の用意」という家事項目の横には☆が2つと担当者名として私の名前が記載され、「洗濯機を回す」という家事項目の横には☆が2つと担当者名として「鬼嫁猫」の名が記載されている、という具合である。

 鬼嫁猫によれば「2人の☆の数の合計が同じになるように家事を分担した」とのことであるが、☆の数は鬼嫁猫が独断により決めたものであり、その内容はあまりに不公平である。

 なかでも、鬼嫁猫の担当となっている「洗濯機を回す」と、私が担当するよう記載されている「洗濯物を干す」がともに☆2つとされているのはどう考えても妥当でない。洗濯機を回すのはボタンを押すだけであるのに対して、洗濯物を干すのは、既に干してある洗濯物を取り込んだ上で、新たな洗濯物を乾くように広げて干すという高度な作業であり、雲泥の差である。

 したがって、私は「洗濯物を干す」については☆を4つにするよう抗議した。

 しかし、鬼嫁猫は、「それであれば、ふとんクリーナーの☆を2つ減らす。(ふとんクリーナーの担当は私と記載してある。)」といって聞かない。このようなむちゃくちゃな反論を表情を変えずにできてしまうあたりが末恐ろしい。

 そもそも、「ふとんクリーナー」の☆の数は3個となっているが、☆3つというのはふとんクリーナーの大変さに比してかなり少ないといえ、これから☆を2つも減らされて☆が1つというのはあまりに不合理である。

 「洗濯機を回す」というボタンを押すだけの作業(鬼嫁猫担当。☆2つ。)よりも、「ふとんクリーナー」というふとんを何回もひっくり返しながらダニと格闘する作業(私の担当。☆1つにされかけている。)の方が、負担が小さいわけがないのである。

 しかし、鬼嫁猫は「『洗濯物を干す』を☆4つにするのであれば、『ふとんクリーナ―』の☆を1つにする。それが嫌であれば、『ゴミ捨て』(私の担当)と『風呂掃除・風呂入れる』(鬼嫁猫担当)」の担当を変更する。」という。

言っていることはよく分からないが、次々と和解案を提案するとはなかなか曲者である。

 「風呂掃除・風呂入れる」の担当が私となってしまうと、私の帰りが遅い時に鬼嫁猫が風呂に入ることができず不機嫌となるのが目に見えている。「『風呂掃除・風呂入れる』の担当は鬼嫁猫でお願いしたい。」、さらに「ふとんクリーナーは☆5つである。」と応戦した。

 鬼嫁猫はしばらく黙り込み、「シー。シー。」と謎の音を発し出した。これは警報のようなもので、この音が鳴り出すともれなく鬼嫁猫は不機嫌になる。しかし、ここで引くわけにもいかないので「なにか1つ私の担当となっているものの担当を変更したい」と提案した。

 鬼嫁猫はキッ(ニャッ)と私を睨むと

「私を不機嫌にさせるんか。」

と言い残し、くるっと向きを変えて風呂場に向かって歩いて行った。“かなり怒っている”ということを示しているようだ。

 しばらくすると、鬼嫁猫は風呂から上がってきた。タオルを頭にぐるぐると巻いて顔を大きく見せ、威嚇しているようである。鬼嫁猫は冷蔵庫を開けてコーラを取り出し、一口飲むと「とりあえず、しばらくこの表のとおりやってみるで。練習や。」と言った。

 「練習」の意味するところが不明瞭であるが、刃向かえば鬼嫁猫がシーシー音を発し出すのが目にみえていたので、やむなく私は家事分担表を承認することにした。

 それ以来、私は洗濯物を干し続けている。